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麻農家訪問記(Part.3)~人として生き抜く~

麻という驚異の生命力

 人間が生きるか死ぬかの生死をかける時代。それはいつかと言えば、<移動が始まったときから>と大森さんは話し始めます。
 「もう、縄文時代どころじゃない。なんでかっていったら、麻の特性がそういうもので、オスとメスが別々なの。雄株と雌株が。雄株が9月に花が咲くとね、一週間ぐらいで花が茶色くなって落ち始めると木まで枯れちゃう。ところがメスは、らんらんと実をたくさんつけて来年に繋ぐ種を残してくれるじゃない」

 「2億年前から、超原子生物、オス、メス別の株。あらゆる地球の気候変動の中(氷河期だったり、大洪水だったり)6,600年前には、隕石が落ちた。世界中の気候がおかしくなった。人も生きるどころじゃない。動植物もマンモスも恐竜もみんな参っちゃった。その時代も生き抜いてきたのが<麻>。いかなる環境にも耐え抜くのが<麻>。だから、熱帯から極寒の地でも麻って栽培できるんだ」

「どこにいても生き抜く力をもっている植物だよね。そこがスタートなんですよ」

 「何もない時代に、なんで麻の種を持って歩いたかってね、太古だから何万年も昔の話。ひとにぎり100gに500から600粒ある。それをバラバラまいて2週間で発芽して90日経つと成熟するわけ。折って繊維をとれば釣り糸にもなるし、藁にもなるし、家の外側に麻ひもを使う。麻は雨にも強い。生きていくものすべてが揃うわけ。麻糸、衣服、靴、手袋、日用品がすべて作れる」

 「この麻が育つのに一番いいのは、この日本だと思ってる。春夏秋冬、桜の咲くころ気温が上がり、ある程度の湿度もあり雨が降る。雨がないと麻は伸びない。そして収穫。湿気に対応するために、かやぶき屋根、土壁、畳に織り込まれたのは麻。麻からとれる油で縄文時代には天ぷら作ってた。(これは、某大学の先生のお話だそうです)」

 わたしは興味深くこのお話に聞き入っていましたが、なによりも、大森さんの語る淡々とした語り口調とほほ笑みをたたえた柔和な表情を見ながら、大森さんの麻への愛を感じておりました。

全ては選択。それがその人の人生の道

 世の中が大きく変わる岐路に立っている今、何がどう変わってきているかを見極めるには、日常のありふれた生活全般の背景にある政治、経済、法律、そして自分自身も含めた生活習慣の異常さに気が付くことが、この先の未来をどう生きるかの選択になるのかもしれませんね。

 電車やバス、さらには自転車に乗りながら、歩きながらもスマホの画面から目を離せない人々が大勢います。そして、その両耳にはイヤホンが深くささり、周囲の音を遮断している。生きているステージが別次元に置き換わっているようです。

 この3次元世界の森羅万象と共存する大森さんの中にも、AIというワードは生きる選択肢の大きなテーマであることは、私たちと同じ。農業にも技術革新はあり、過酷な労働を軽減する機械の進化は目覚ましいものがありますが、他方、その農産物の種や遺伝子組み換えの負の産物が発現する時代にもなっています。

 巨大な利権の世界に組み込まれたこの数百年の歴史の中で、人間社会は、ニンゲンという完全な生き物を変えていきました。私たちのカラダの中の宇宙に欠損はないという原則は、本来単独で生きている生命体ではなく、この地球上に生きる生命体の一部であるという解釈ができてはじめて理解できるものです。

 どのような環境になろうとも、命を繋ぐ力を秘めているのは、麻だけではなくわたしたちニンゲンも同じです。その真意は、肉体的な完全性を維持する<意識の在り方>と、繋ぐいのちの先にある次世代への遺産をどの方向に残したいかという気持ちでしょう。その選択肢に優劣はなく、それぞれの人生の道になるという現実があるだけです。

 「人工知能が主流になる時代になればなるほど、狭間で一番人間らしく生きていくにはどうしたらいいかと言えば、やっぱり汗をかいて、泥まみれになって、あと、そういうものを取り入れて生きていく人たちっていうのもたくさんいると思うんだよ。お金持ちもいれば、お金のない人もいる。生き方を作っていくわけじゃん。そういう時代の中でオレでいいっていう人がいればそれでいい」

 大森さんは、静かな断言をしていました。人生の生き方をブレずに歩んできた人の自分自身への信頼から出る言葉だと思いました。

 時代を遡って古代の生活にもどろうとすることが、この時代の<原点回帰>ではありません。時代といのちの螺旋は、間違いなく進化と発展を携えていきます。その中で、変わらない価値あるものを手放すことを強いられてきた長い年月に、わたしたちは、失うものが多すぎたことを気づかずにいる。
 今起きているあらゆるカオスの環境の中で、もしかしたら私たちは、生き方の原点を取り戻すチャンスをもらっているのですね。

Part.3はここまでです。最終章のPart.4は明日投稿いたしますので、おたのしみに…

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